仙台地方裁判所 昭和51年(モ)210号 判決 1980年3月24日
債権者 総評全国一般全明治屋労働組合仙台支部 外一名
債務者 株式会社明治屋
主文
一 仙台地方裁判所昭和五一年(ヨ)第七九号仮処分事件について同裁判所が昭和五一年二月一八日になした決定中、債権者総評全国一般全明治屋労働組合仙台支部に関する部分を認可し、債権者宮城一般労働組合に関する部分を取消す。
二 債権者宮城一般労働組合の本件仮処分申請を却下する。
三 訴訟費用は、債権者総評全国一般全明治屋労働組合仙台支部と債務者との間では債務者の負担とし、債権者宮城一般労働組合と債務者との間では、同債権者に生じた費用の二分の一を同債権者、同債権者に生じた費用の二分の一及び債務者に生じた費用を債務者の各負担とする。
四 第一項中、取消しを命じた部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 債権者ら
主文第一項掲記の仮処分決定を認可する。
二 債務者
1 主文第一項掲記の仮処分決定を取消す。
2 債権者らの本件仮処分申請をいずれも却下する。
3 申請費用は債権者らの負担とする。
第二申請の理由
一 当事者
債務者は、酒類、食料品類の卸小売を業とし、肩書地に本社を置き、仙台に支店を有している。一方債権者宮城一般労働組合(以下「債権者宮城一般」という。)は、宮城県内の商業、サービス業等一般産業、中小企業の労働者約一〇〇〇名で組織している労働組合であり、債権者総評全国一般全明治屋労働組合仙台支部(以下「債権者支部」という。)は、債務者仙台支店に働く労働者二三名で組織する労働組合であり、債権者宮城一般の支部でもある。
二 債権者支部の被保全権利
1 組合事務所の使用の経緯
(一) 債務者仙台支店の主たる業務が仙台市一番町所在の店舗で行なわれていた昭和三五、三六年頃、債権者支部は、債務者に対し、従業員の休憩室の設置と組合事務所の提供を要求し、右店舗二階の一部約一〇坪を休憩室として使用することが認められ、以後、右休憩室を、債権者支部の会議の開催、組合ビラの掲示等、事実上組合事務所として使用してきた。
(二) ところが、債務者が右休憩室内のビラ張りにつき異議を述べ、債権者支部との間で争いとなつたため、債務者仙台支店新社屋が仙台市卸町の現在地に建設されることになつた昭和四三年頃から右社屋が完成した同四五年四月頃まで、債権者支部は、債務者に対し、新社屋に組合事務所を設置することを要求し、債務者仙台支店支店長らと交渉を継続した結果、支店長は、債権者支部に対し「部屋の表示は書庫とし、内部に使用しない書類の一部を入れるが、会社は組合側に無断で立入らない」旨約束して別紙目録記載の部屋(以下本件事務所という。)を指定した。
(三) 昭和四五年四月一二日、新社屋への移転の頃、債務者は債権者支部に本件事務所の鍵を渡し、以来債権者支部は、本件事務所内で職場会議、役員会議の開催、組合員の生活相談、組合機関紙の編集印刷等を行ない、部屋全体を日常的に組合事務所として使用してきた。本件事務所内には債務者所有の書棚二台が置かれ、債務者はうち一台の一部に古いパンフレツトを置いている。右書棚の余裕部分に債権者支部は用紙類等を保管しているが、債務者から抗議を受けたことはなく、また債務者側は本件事務所に立入つていない。
2 昭和五一年二月一三日、債務者は債権者支部に対し、本件事務所の半分のスペースを同月一八日までに明渡すよう通告した。
3 本件事務所の使用権限
前記1の事実からすれば、債権者支部には次の様な使用権限がある。
(一) 使用貸借
昭和四五年四月初旬、債権者支部は、債務者から本件事務所を、組合事務所として使用する目的で、期間を定めず無償で貸与された。
(二) 無名契約
債権者支部は、債務者との次のような内容の無名契約に基づき、本件事務所を使用している。すなわち組合事務所は組合活動の本拠として重要な役割を果すものであるから、企業施設内における組合事務所の無償供与契約は、これと異なる明示の取決め又は特段の事情のない限り、供与の目的物を組合事務所としての機能を果す範囲で最小限の広さを有し、かつその具体的指定及び指定の変更が使用者の裁量に委ねられている施設の一部とし、その期間は企業経営に支障を来さない限り存続する無名契約と解すべきである。
(三) 黙示の労働協約
昭和四五年四月初旬、債権者支部と債務者間で本件事務所を組合事務所として使用占有する旨の黙示の労働協約が成立し、又は労使間で職場の労使慣行として成立した。
4 債務者の本件事務所の明渡請求は、以下の理由から、許されない。
(一) 債権者支部の本件事務所を使用する権限は使用貸借契約に基づくものであるから、債権者支部が労働組合として存続する限り、契約に定めた目的に従つた使用及び収益の終了時期すなわち返還時期は到来しない。
(二) 債権者支部の使用権限が無名契約であるとしても、組合事務所の特定は企業活動の自由と組合活動の自由とのバランスにおいて決せられるべきであり、完全に使用者の裁量に委ねられているものではないから、使用者は代替施設を提供しない場合には企業経営に支障を来さない限り契約を解約することは許されないと解すべきところ、本件においては、債務者は代替施設を提供せず、また次の(三)(5)のとおり契約の存続は債務者の企業経営に支障を来すものではない。
(三) 本件事務所の明渡請求は、後記の事実を併せ考慮すれば、債権者支部の運営に対する干渉の契機を包蔵するものであり、労働組合法七条三号の不当労働行為に該当する。
(1) 債務者は管理職により昭和五〇年八月から債権者支部組合員に対し集団脱退工作を行なつた。このため、債権者支部は、昭和五〇年八月頃までは、債務者仙台支店従業員約九〇名中七〇名の組合員を擁していたが、本件仮処分申請時には二三名となつた。
(2) また債務者は債権者支部組合員に対し賃金査定及び昇級昇格面で差別的取扱いを行なつている。
(3) 債務者は、債務者主催の国外招待旅行に、債権者支部組合員以外、もしくは組合脱退者である非管理職は参加させているが、債権者支部組合員は参加させていない。
(4) 債務者は本件明渡要求と同時に組合事務所の電話使用方法を直接ダイヤル発信から交換手を経由する方式に切換え、そのため、債権者支部は、休日、始業前、終業後の使用を禁止された。
(5) 本件事務所の半分のスペースでは、ワインセラーに改造した一階書庫に収納されていた書類等及びコンピユーター資料を収納するには現在でも不十分であり、また収納すべき書類は今後も増加することが予想され、本件事務所半分の明渡しによつては解消できないばかりでなく、他にも収納場所として使用できる場所がある。
三 債権者宮城一般の被保全権利
債権者支部は全明治屋労働組合の支部であるとともに債権者宮城一般の支部でもあり、債権者支部が本件事務所を使用するに際し右いずれの支部として使用するかを判然と区別できない。
また債権者宮城一般は、債権者支部と連名で、組合事務所の要求等について債務者と交渉してきており、債権者宮城一般の組合員・役員は、組合用務で本件事務所を訪問し、あるいは合同の会議を開催したりしている。
従つて債権者宮城一般も本件事務所を使用する権限を有し、使用を妨害されない利益を有する。
四 保全の必要性
1 本件事務所は、前記二1(三)の使用状況からみて、組合活動を行う上で不可欠であるが、本件事務所の半分の明渡しによつて債権者らが組合事務所として使用することは不可能となり、また他に同様の組合事務所を確保することは不可能であるから、組合活動・組合自体が壊滅的打撃をうける。
2 前記二2の本件事務所明渡通告がなされた二月一三日は金曜日であるが、翌日の土曜日、翌々日の日曜日は休日であるので、債権者支部は明渡期限である二月一八日までに早急に団体交渉をするように申し入れたが債務者は応じなかつた。しかも債務者は、右明渡通告と同時に、債権者支部の申し入れを無視して、前記二4(三)(4)の電話使用方法変更のための配線工事を施工している。
従つて、債務者は債権者支部所有の机等を物理力をもつて撤去するおそれがある。
五 そこで債権者らは、仙台地方裁判所に対し、昭和五一年(ヨ)第七九号仮処分事件として、本件事務所における正当な組合活動に必要な使用占有の妨害禁止を求める仮処分を申請したところ、同裁判所は昭和五一年二月一八日債権者らの申請を認容する主文第一項掲記の決定をしたが、右決定は相当であるので、これが認可を求める。
第三債務者の訴訟要件についての主張
一 債権者支部は、(1)代表者又は管理人について定めた規約を有しないこと、(2)争議権の行使が、本部と無関係に独自に決定実行できず、本部の承認を要すること、(3)正式名称が不明確であること、(4)その他実質的に代表者又は管理人についての定めを有していると認めるに足る事実につき主張・立証がないこと、からして民事訴訟法四六条の法人に非ざる社団又は財団に該当せず、当事者適格を有しない。
二 債権者らは債権者支部と債務者間の契約若しくは労働協約を本件事務所の使用権限の根拠として主張しているのであるから、債権者宮城一般に被保全権利がないことは主張自体から明らかであつて、債権者宮城一般は当事者適格を有しない。
第四債務者の答弁及び主張
一 答弁
1 申請理由一のうち、債権者支部の組合員数は否認し、債権者宮城一般の組合員数及び債権者間の関係は不知、その余の事実は認める。
2 同二1(一)のうち「組合事務所として使用していた」ことは否認し、その余の事実は認める。休憩室は本来債務者の作業場であり、会社業務に支障がない限り休憩室としての使用を許していたのである。
同二1(二)のうち、債務者がビラ張りに異議を述べたこと、債務者仙台支店新社屋建設計画が昭和四三年頃立てられたこと、同四五年四月頃現在地に仙台支店新社屋が竣工したこと、その間債権者支部が債務者に対し新社屋に組合事務所を設置することを要求して労使間交渉が継続したことは認め、その余の事実は否認する。
同二1(三)のうち、債権者ら主張の新社屋移転の頃債務者が債権者支部に本件事務所の鍵を交付したこと、本件事務所内に債権者が書棚二台を置いており、その一部に債権者支部が用紙類等を置いているが、債務者が抗議しなかつたことは認め、本件事務所内で債権者支部の会議が開かれていることは不知、その余の事実は否認する。
3 同二2の事実は認め、同二3の一ないし(三)のうち、債務者が代替施設の提供をしていないことは認め、その余の事実はいずれも否認する。
4 同二4のうち冒頭の事実、(一)(二)の事実、(三)冒頭の事実は否認する。
同二4(三)の(1)ないし(3)のうち、昭和五〇年八月頃まで債務者仙台支店従業員約九〇名中七〇名が債権者支部組合員であつたことは認め、本件仮処分申請時の同組合員数は不知、その余の事実は否認する。
債権者支部組合員の大量脱退は、債務者の支配介入によるものではなく、全明労執行部に対する内部批判に起因する。
同二4(三)の(4)のうち、電話の使用方法を債権者主張のとおり変更したことは認める。右変更は経費節減のため仙台支店全体について行なつたのであり、これにより、債権者支部の使用電話料金が明確となつた。
同二4(三)の(5)のうち、他に収納場所があるとの事実は否認する。
債務者仙台支店社屋には他に書類等を収納すべき場所的余裕はなく、本件明渡しを求めているスペースは当面最小限度必要な範囲である。
5 同三のうち、債権者らが連名で債務者に要求書を提出し交渉の場に同席していること、債権者宮城一般関係者が本件事務所に出入りすることがあることは認めその余の事実は否認する。
6 同四1の事実は否認する。同四2のうち、明渡通告の日に電話使用方式変更工事を施工したことは認め、その余の事実は否認する。債務者は債権者支部の申し入れについては誠意をもつて交渉に応ずる意思があり、物理力を使用する意思はない。
二 本件事務所の使用状況
本件事務所は債務者仙台支店新社屋建築当初より書庫として作られたもので、債務者は右書庫に書棚二台を設置して営業用パンフレツトを置き、経理課員等が会社業務のため頻繁に出入りし、書庫として使用してきた。債務者は、昭和四五年四月初旬頃、債務者が書庫として使用することを前提としてそれに差しつかえない限り余裕空間を債権者支部が支部の物品等を置くために使用することを許したものである。また債務者施設管理責任者は本件事務所の鍵を保管して巡視していた。従つて本件事務所については、債務者は、債務者の企業経営に支障を生じない限り、債権者支部に債務者との共用を許したもので、債権者支部に貸与したのでも排他的使用権限を与えたのでもない。
三 債務者の使用の必要性
債務者は、近年のワイン及び高級輸入菓子販売量の急激な増加に対応すべく、昭和五一年二月、仙台支店社屋一階の書庫、洋酒庫をそれぞれ輸入菓子庫、ワインセラーに改造したため、一階書庫に格納していた書類等を保管する場所が必要となつた。またコンピユーターの導入に伴ないコンピユーター関連資料が増加しているが、仙台支店社屋内には他に適切な収納場所はなく、本件事務所の半分のスペースは最小限度必要な範囲程度として使用するものである。
四 本件事務所の明渡請求の有効性について
(一) 債務者は昭和五一年二月一三日債権者支部に対し本件事務所の半分の明渡を請求したが、右明渡請求には次のとおり正当な理由がある。
(1) 債務者は、債権者支部に対し、本件事務所を貸与したのではなく、企業経営に支障を生じない限度で債務者との共用を認めたにすぎないから、債権者支部は債務者の明渡請求に応ずべき義務がある。
(2) 仮に、本件事務所につき組合事務所を使用目的とする使用貸借契約が成立したとしても、期間の定めがない場合には業務上の必要に基づく正当な理由があれば解約できると解すべきところ、債務者には前記の必要性があり、これは右の正当な理由に該当する。
(3) 労働協約は書面でなされなければ私法上の効力を生じないが、仮に、本件事務所につき組合事務所として使用占有する旨の労働協約が成立したとしても、債務者は右明渡請求により労働組合法一五条規定の解約の申し入れをしたので、その後九〇日の経過により労働協約は解約された。
(二) 債務者の明渡請求は、前記の必要性に基づくものであつて、不当労働行為に該当せず有効である。
第五疎明<省略>
理由
第一訴訟要件について
一 債権者支部の当事者能力について
成立に争いのない疎甲第七、第一五号証、債権者支部代表者杉本正勝本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる疎甲第一号証によれば、債権者支部は総評全国一般全明治屋労働組合(以下「全明労」という。)の仙台支部であつて、債務者仙台支店従業員で組織されていること、全明労の規約中には、支部に関し、最高議決機関としての支部大会、執行機関としての支部執行委員会、支部を代表し業務を統轄する支部執行委員長、その他支部副執行委員長、支部書記長等に関する各規定、及び支部大会の決議によつて支部の細則を定めることができる旨の規定があること、債権者支部は、右規約に基づき、支部大会、支部執行委員会、支部執行委員長、支部副執行委員長、支部書記長等を有し、全明労本部からの配布金を財政の基礎とし、支部の細則はないが右規約中の全明労本部に関する規定を準用して組織を運営していること、旅費支給、ストツキング支給、作業服支給等支店単位の問題については、債権者支部執行委員長が債権者支部を代表して債務者仙台支店担当者と交渉し協定を締結するなど支部独自の活動をしていること、争議権の行使は中央大会の決定に従う外、中央執行委員会の承認を得て支部単位でも争議を行うことができ、右承認を拒否されたことはないことが認められ、以上認定の事実によれば、債権者支部は執行委員長を代表者とする社団としての実質を有しており、民事訴訟法四六条の「法人に非サル社団」に該当すると認められる。
二 債権者宮城一般の当事者適格について
本件仮処分は本件事務所の占有の妨害を禁止することを求める仮処分であるから、被保全権利である妨害禁止請求権を有すると主張する者が債権者適格を有するところ、前記事実摘示のとおり債権者宮城一般は右被保全権利を有していると主張しているので、債権者適格がある。
第二債権者支部の被保全権利について
一 債権者支部の本件事務所に対する使用権限について
まず本件事務所の使用の経緯及び使用状況について判断する。
前掲の疎甲第七、第一五号証、成立に争いのない疎甲第六、第一四号証、疎乙第一号証の一ないし三、債権者支部代表者本人尋問の結果、証人佐々木紘輝、同及川の各証言によりそれぞれ真正に成立したと認められる疎甲第五号証、第八号証の一、二、第一一号証、証人小田島昭、同佐々木宏、同及川薫、同千葉孝行、同岩手隆勝、同佐々木紘輝、同清野一郎、同伊藤保生、同戸塚清の各証言(但し、証人清野、同伊藤、同戸塚の各証言については後記信用しない部分を除く。)、債権者支部代表者本人尋問の結果を総合すれば次の事実が認められる。
(1) 債務者仙台支店が仙台市一番町所在の現在の債務者ストアに於て業務を行なつていた昭和三六年頃、債権者支部は、債務者に対し従業員の休憩室及び組合事務所の供与を要求して交渉し、休憩室の使用を認められ、休憩室に組合宣伝用ビラ等を印刷するための謄写板を置いたり、組合活動のための集会を開催したりして右部屋を利用していた。
(2) その後債務者仙台支店の業務の拡大とともに右社屋が狭隘化したため、昭和四三年頃債務者仙台支店新社屋の建設計画が構想されたが、この計画を知つた債権者支部は、同年七月頃、新社屋に組合事務所を設置すること等を要求し、当時の北村仙台支店長ら債務者仙台支店担当者と交渉を重ねたところ、新社屋移転前に、同支店長は設計図上書庫と表示されていた本件事務所を債権者支部が無償で使用することを承認し、但し債務者本社に対し本件事務所を組合事務所として設計図の承認を申請すると却下されるので、本件事務所の表示を書庫とする旨説明した。
(3) 昭和四五年四月、債務者仙台支店は新社屋に移転したが、その際債権者支部は本件事務所入口の鍵を渡され、債務者仙台支店が旧社屋で使用して不用となつた木製の机四台を譲り受けて本件事務所に搬入した。新社屋には一階、二階、三階に各一箇所の書庫があつたが、電話が配線されていたのは本件事務所のみであつた。
また前記移転当時、本件事務所内には債務者所有の書棚四台が搬入されていたため、移転直後の団体交渉において話し合われた結果、債務者仙台支店としては本店との関係で本件事務所に品物を置いておく必要があるので、二台の書棚(以下「本件書棚」という。)を置くことで話がまとまつた。債務者仙台支店は本件書棚のうち一台の書棚の下二段の棚に営業用カタログやパンフレツトを置いて使用していたが、本件書棚のその余の部分は債権者支部が用紙類等を置いて使用していた。
債権者支部は、ロツカー、椅子、謄写板等の備品を本件事務所内に置き、同事務所内で、ガリ版刷りの組合機関紙の編集、印刷、支部委員会の開催、組合員に対する連絡活動等、組合事務の処理を行なつてきた。そして昭和五一年二月までは、本件事務所の入口に張られたビラの件を除いては、債権者支部が本件事務所を右のとおり使用していたのに対し債務者からは何らの異議がなく、また債務者仙台支店の管理職も本件事務所にほとんど立ち入らなかつた。
(4) 全明労本部と債務者本社間では、債務者は組合の申出により業務上支障のない限り債務者の認めた適当な場所を組合事務室として無料で貸与する旨の協定があり、諒解事項として全明労本部の組合事務所を貸与場所としているが、債権者支部の組合事務所については貸与する旨の明文の取決めはない。
以上の事実が認められ、右認定の事実に反する証人清野一郎、同伊藤保生、同戸塚清の各証言並びに成立に争いのない疎乙第八ないし第一二号証、第一四、第一五号証中の各供述部分は信用することができず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
右認定の事実によれば、なるほど債権者支部と債務者との間には組合事務所の貸与につき明文の取決めはなかつたものの、本件事務所の使用の経緯、使用状況等に照らすと、債務者は昭和四五年四月頃、債権者支部に対し、本件事務所のうち本件書棚を除く部分を組合事務所として無償で貸与したことが認められる。
二 債務者の明渡請求(解約)の許否について
債務者が昭和五一年二月一三日債権者支部に対し本件事務所の半分を同月一八日までに明渡すことを請求したことは、当事者間に争いがない。
ところで、組合事務所の無償貸与契約は、特段の定めのない限り、企業施設の一部を企業経営に支障のない限り組合事務所として使用させるという無名契約であると解すべきであるので、使用者が組合事務所の明渡請求(解約)をなしうるには組合事務所を使用しなければ企業経営に支障を来すなどの正当な理由がなければならないと解するのが相当である。
前掲の疎甲第六号証、疎乙第一四、第一五号証、成立に争いのない疎乙第五号証、証人戸塚清の証言により真正に成立したと認められる疎乙第一八号証、証人伊藤保生、同清野一郎、同戸塚清(後記措信しない部分を除く。)の各証言、債権者支部代表者本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。
債務者は酒類、食料品の卸小売を業としているが、昭和四八年頃からワイン販売量が急激に増加したため、昭和五一年一月の管理職会議において、社屋を改造してワインセラーを作ることが決められたが、その際同様に低温保管を要する輸入菓子の保管庫をも作ることとし、同年五、六月頃、支店社屋一階洋酒庫をワインセラーに、同一階書庫を輸入菓子庫に改造する工事が施工された。このため一階書庫に収納されていた書類等を移置し、また昭和五〇年一〇月頃導入されたコンピユーターの関連資料を保管する場所が必要となつた。右コンピユーター資料は急増しつつあり、本件書棚のうち一台に収納されている外、ダンボール箱に収められ、社屋三階の約一〇坪の広さの会議室の約三分の一の面積をアコーデイオンカーテンで仕切つた場所に山積みに存置されているが、今後も増加の一途を辿ることが予想される。
一方本件事務所は一〇・八八平方メートルの広さであり、内部には本件書棚二台の外債権者支部の机、椅子、ロツカー等が置かれ、余裕空間はあまりない。そして債務者事務室が社屋二階にあるため本件書棚に保管されている資料は日常使用するものではない。また、社屋内踊場、元電話交換室等には、債務者の書類等が未整理のまま雑然と放置されている。
以上の事実が認められ、右認定の事実に反する証人戸塚清の証言は信用することができず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
右認定の事実によれば、収納すべき債務者の資料・書類等は大量でありかつ増加しつつあるので、これらを収納するためには、狭い本件事務所の半分の広さでは到底間に合わず、他により大きな保管場所を別途用意したり、資料・書類等の整理や処理の方法を工夫するなどしなければ、問題は解決できないのに対し、右認定の本件事務所の広さ、室内の状況に債権者支部組合員数が一九名であること(債権者支部代表者本人尋問の結果により認められる。)、前示第二の一の本件事務所の使用状況等を併せ考慮すると、本件事務所の半分のスペースの明渡しによつて債権者支部の組合活動は多大な支障を生じることが認められる。
従つて、債務者が本件事務所の半分を使用する必要性が右認定の程度では債務者の企業経営に支障を来すとはいえないので、債務者が本件事務所の代替場所の提供を申し出たことがない(この事実は当事者間に争いがない。)本件においては、債務者の明渡請求(解約)は正当な理由がなく、許されない。
第三債権者支部の保全の必要性について
前掲の疎乙第一四、第一五号証、成立に争いのない疎甲第一三号証、疎乙第五二号証、証人戸塚清の証言、債権者支部代表者本人尋問の結果によれば、債務者仙台支店戸塚総務課長らは、昭和五一年二月頃より本件事務所内にコンピユーター資料等を逐次搬入し、本件仮処分決定後においても、同室内に立入り書類等を搬入し続けていること、債務者は、本件事務所の明渡請求をした頃、書棚を購入して三階会議室と廊下に搬入していること、債務者仙台支店は土曜日、日曜日が休日であるが、右明渡請求は昭和五一年二月一三日金曜日に突如としてなされたため、明渡期限である同月一八日までに交渉をなす時間的余裕がないにもかかわらず、組合との交渉担当者である戸塚総務課長は、同月一六日の債権者支部の交渉申入れに対し明渡請求を撤回する意思のないことを言明し続け、日程調整がつかないことを理由として交渉日を決めなかつたこと、債務者は、右明渡請求と同時に、本件事務所の電話使用方式の変更をも債権者支部に対し突然通告し、翌一四日には工事を施工したこと、その結果、本件事務所内の受話器からは、交換手を経由しなければ債務者仙台支店外に電話をかけられなくなつたことが認められる。
右認定の事実によれば、債務者は、債権者支部の本件事務所の使用に対し、何らかの妨害行為をなすおそれがあつたことが認められるので、本件仮処分の保全の必要性はあつたと解するのが相当である。
第四債権者宮城一般の被保全権利について
債権者宮城一般が、債権者支部と連名で債務者に対し組合事務所等の要求書を提出し、債務者との交渉の場に同席していること、債権者宮城一般関係者が本件事務所に出入りしていることは当事者間に争いがなく、証人小田島昭の証言によれば、債権者支部が債権者宮城一般に加盟していることが認められるが、本件事務所は企業施設の一部であるので、債務者が債権者支部に対し本件事務所を無償で貸与した際、外部団体である債権者宮城一般に対してまで貸与する意思があつたとは到底認められず、その他債権者宮城一般の本件事務所に対する使用権限を認めるに足る証拠はない。
よつて債権者宮城一般には本件仮処分の被保全権利につき疎明がない。
第五結論
以上によれば、本件仮処分申請のうち、債権者支部申請にかかる部分は理由があるので、主文第一項掲記の仮処分決定のうち右申請を認容した部分は相当であるからこれを認可し、債権者宮城一般申請にかかる部分は疎明がないことに帰するので、主文第一項掲記の仮処分決定のうち右申請を認容した部分は不相当であるから、これを取消して右申請を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石川良雄 今井理基夫 藤村真知子)
(別紙物件目録省略)
仮処分決定の主文
主文
債務者は、別紙物件目録記載の組合事務所につき、債権者及びその構成員、訪問者らが正当な組合活動に必要な限度でなす占有使用を妨げてはならない。
(別紙物件目録省略)